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第238話
「足の具合はどうですか? 一応、痛み止めも作ってきましたが」
だが、これは気休めだ。優に様々な知識を与えられた雪也は理解していた。歳をとれば筋肉はもちろん、脂肪でさえも落ちてしまう。おそらくは体内で骨同士が擦れてしまっているのだろう。それに、閉経した女性は骨が弱ることが多いと聞く。転んだだけで骨折してしまう者も、少なくはないとか。それらの症例は沢山上がっており、雪也が予想するには充分なほどであるが、逆に言えばそれだけだ。今の医学では、薬でほんの僅か痛みを紛らわせるだけで、根本的な解決策はない。だがそれを言うわけにはいかない。薄々感づくことはあるかもしれないが、雪也が断言してしまっては希望が砕かれてしまう。人の助けになりたいと願うなら、それだけはしてはならない。
「少し良くなったような気がしてねぇ。だから、今日は朝から娘の着物を縫ってやろうと思って。ほら、随分進んだだろう?」
言葉通り、今日は調子が良いのだろう。嬉しそうに笑いながら末子は薄紅の、縫いかけの着物を広げて見せた。すでに着物の形をしているそれは古着屋で仕入れてきたものだろう。少しほつれたり汚れているところを隠すようにしながら、丈を調節して縫い直しているのだ。
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