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第252話

 さて、どの人だろうかと不躾にならない程度にグルリと視線を巡らせるが、それらしい人はおらず、誰も雪也達に声をかけたり近づいても来ない。はて、と内心小首を傾げた時、バタバタと慌ただしい足音が奥の方から聞こえ、小さな障子戸が開かれると狭そうに身体を縮めながら若い男が出てきた。おそらくは雪也よりも少し年上なのだろうが、年齢よりも何よりもその体躯に目が行ってしまう。無表情に駆け寄って来た男は、雪也が見上げるほどに大きく、鍛えているのだろうか、肩幅もあって壁のようだ。武人である紫呉も大きくて立派な体躯をしているが、目の前の男はそれ以上に大きくガッシリとしている。思わず雪也は半歩後ろに下がった。 「すいません火野さん。わざわざ来てくれたのにお待たせしてしまって。あんまり咳をするもんだから、今親父を奥に連れて行ってたところだったんです。来てもらえますか?」  いっそ見事なほどに表情を変えず丁寧に言う彼は、その内容を聞くにこの呉服問屋の息子なのだろう。雪也と視線が合うと、丁寧に頭を下げてくれ、雪也も慌てて深々と頭を下げる。そんな二人の様子にカラカラと笑った蒼の父は、男を促して奥へと足を向けた。その後ろを雪也もついて行く。

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