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第253話
男が狭そうに身を縮めながら出てきた障子戸は店と家との仕切りなのだろう。奥はどこか生活感が溢れた空間が続いており、おそらく家人は皆店に出ているのだろう、奥はシンと静まり返っている。全員が無言で足を進めていれば、微かに咳き込む声が聞こえ、それは奥に行けば行くほど大きくなった。
「こちらです。お客さんを通すような部屋ではないので、散らかっていて申し訳ないんですが」
そう一言断りを入れて、男は目の前の襖を開く。部屋に足を踏み入れれば、敷かれた布団に横たわりながら苦しそうに咳き込む老人がいた。
「おやっさん、大丈夫かい? 言ってた雪ちゃんを連れて来たぜ」
蒼の父が声をかければ、苦しそうに顔を歪めながら老人が振り向く。おそらく咳を我慢しているのだろうが、それは長く続くはずもなく、すぐに顔を真っ赤にしながら激しく咳き込んだ。息子である男が慌てて駆け寄り、背中を摩る。
「ここ最近ずっと咳き込んでいるんですが、今日は朝から本当に咳き込みが激しくて」
どうにかなるか、と無表情なのにどこか縋るような視線を向けてくる男に、雪也は近づいた。
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