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第260話
「では様子見に十日分ほどいただこうか。おい、兵衛。このお若いのに十日分と、さっき儂が飲んだひと包み分を払ってやれ。薬は取に行ったら良いか?」
随分と落ち着いてきたのか、老人はゆっくりとではあるものの息子――兵衛に告げた。頷いて立ち上がろうとする彼を、雪也は慌てた様子で引き留める。
「いえ、私が薬をお届けしますから、お代は薬が出来た時にいただければけっこうです。いただくのは十日分のみで、今日お渡しした分は私が勝手にしたものですから、お代はいりません」
多くは取れないという雪也に老人は目を細める。ゆっくりと白湯をひと口飲んで、老人は雪也に首を横に振ってみせた。
「ならば十日分の薬代は薬と引き換えに支払うが、先程儂が飲んだ分は今支払う」
「しかし――」
「金銭に情を入れては破滅するぞ? お若いの」
受け取れないと口を開いた雪也の言葉を遮るように、老人はそう言い切って兵衛に視線を向ける。老人の無言の指示に頷いて、兵衛は静かに部屋を出た。おそらくは今日の分の薬代を取りに行ったのだろうと雪也が顔を曇らせたのを見て、老人はクツリと笑う。
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