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第262話
「どれほど少額であろうと商いに情を介在させてはならん。情にほだされてはならん。可哀想だから、申し訳ないからと本来受け取るはずの金を受け取らんのは善意のように見えるが、最後に待つのはそなたと、そなたが養っている者だけが破滅する未来だ。なぜかわかるか?」
カタリと襖が開く音がして、静かに兵衛が入ってくる。父親と雪也が無言で見つめ合っており、蒼の父が苦笑している姿から何かを察したのだろう、彼は無言で元いた場所に座った。少しの沈黙が落ちた時、雪也が俯いたままポツリと呟く。
「……私が稼げなくて、養えなくなるからでしょうか」
周が食事の全般を作ってくれ、由弦が雑草を抜いたりと薬草園の手入れをしてくれているから、雪也に時間の余裕ができてゆっくりと薬を煎じ、売ることが出来る。だが、実際問題として庵の中で銭を稼いでいるのは薬だけだ。その薬の稼ぎがなければ食材を買うことができず飢えに苦しむことになる。確かに、老人の言う通り破滅する未来が来るだろう。
「そういうことじゃ。悲しいかな、時が経てばその温情が当たり前だと思い傲慢になってしまうのが人の業というものじゃからな」
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