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第274話

「他はともかくとして、ここは皆知ってるんだから、隠れてないで来たら良いんだけど。でも、一応僕には気づかれてないと思ってやってるみたいだから、よくわからない以上は気づいていないフリをしておく。もしかしたら、僕には知られたくないものかもしれないから」  ちょっと気になるけどね。そう苦笑して、雪也は蒼と湊から必要な野菜を受け取り、おつりが出ないよう銭を渡して店を出た。庵へ向かう道中で、あちこちから声をかけられては挨拶を返す。 (あ、そう言えば末子おばあちゃんの薬、明日届けないといけないから作っておかないと)  すっかり忘れてた、と雪也は少し歩調を速める。いつの間にかいなくなっていた周は、雪也が庵に着くと、さも今まで料理をしていましたと言わんばかりの恰好で「おかえり」と言ってきた。雪也もそれに気づいていないとばかりに「ただいま」と返す。そんな二人の様子を見ていたサクラが、ため息をつくかのように小さく鼻を鳴らした。

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