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第275話
パラッ、と乾いた音が夜の闇に響く。開かれたそこに真っ黒な墨を滑らせた。
『大丈夫だよ、僕がきっと守ってあげるから、何も怖い事なんてない。って、あなたは言うけれど。怖いのは、あなたが傷つくことだと言ったら、あなたはどうするだろう。わからないけれど、それでも俺はどうしようもなく怖い。俺が伸ばした手をあなたはきっとためらいも無くとってくれるだろうけど、あなたの手は誰がとるのだろう。あなたを抱きしめてくれるのは誰なのだろう。それが俺であれたら良いと思うけれど、きっとあなたは手を伸ばさないし、抱きしめられることも望まない。それがどうしても、俺には耐えがたいのです』
読んでほしいような、欲しくないような。変わることを望み、予想通りにならなかった時を想像して恐れ。結局ぼかしたようにそれを書いて、墨が乾いたのを見ると、パタンと閉じた。
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