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第295話

「周、周さがっていて。大丈夫だから。早く庵に――」  自分のことはどうでも良かった。男娼として店に勤めていたわけではないが、松中の屋敷でしていたことは変わりなく、その過去を無かったことにもできない。責められたとて、報いと諦めよう。だが周はこのことに関しては無関係だ。雪也の過去も彼は知らない。だというのに、雪也を庇ったことで周にまで物を投げられたり罵倒されてはならない。早く安全な庵に帰さなければと思うのに、周は雪也の方を見るでもなく、腕を揺さぶられても動こうとはしなかった。 「帰るなら、雪也と一緒に帰る。こんな所に一人おいて、俺だけ帰ったりなんてしない」  震えるほど強く拳を握りながら雪也を庇い、睨みつけてくる周に末子は顔を真っ赤にする。 「そんな顔するんじゃないよッ! こいつが汚らわしい分際で全部隠して、その上お多恵の縁を潰したのが悪いんじゃないかッ! まるでこっちが悪いみたいな顔するなッ!」  誰も近づかないとはいえ、人々の視線は雪也達に集まっている。  人々の目が集まって恥ずかしいのか、ただ自分の正統性を伝えたいのかはわからないが、末子は何度も何度も声高に〝汚らわしい存在〟〝卑しい男娼〟と罵った。それに雪也は何も言わず、周に帰ろうと促すが、周はますます拳を握りしめ、眉間に皺を寄せながら目を吊り上げる。 「それの何が悪いんだッ!」

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