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第306話

「大丈夫だよ」  何も心配することはないと、周を安心させたくて微笑んだのに、周はその微笑みを見て顔を曇らせた。 「でも、痛いでしょう?」  小さく零れたその言葉に、刹那、雪也は言葉を失う。凪いだ胸に小さな波紋が揺れるような、そんな感覚がする。けれど――、 「痛くないよ」  何でもないように、そう言った。また周の顔を曇らせてしまうかもしれないと恐れながら、それでも微笑みを浮かべる。雪也はそれしか術を知らない。 「大丈夫。痛くないし、何でもないよ。心配しなくていい。でも、周が庇ってくれたのは、嬉しかった。ありがとう」  小さな身体で精一杯守ろうとしてくれた。滅多に多くを語らない周であるのに、沢山の言葉を叫び、雪也の前に立ってくれた。本当であればこのような危ない事をしてはいけないと諫めなければならない立場だとは思うが、それは流石に口にせず周の髪を撫でた。 「ありがとう」  もう一度そう呟く雪也の瞳をジッと見つめ、周は瞼を伏せる。  今、周の感情をぶつけるのは簡単だ。きっと雪也は、それを黙って受け止めてくれるだろう。けれど、それをした瞬間に、すべては雪也の為ではなく周の自己満足と自己陶酔になってしまう。周は雪也を助けたいのであって、雪也に我慢を強いたいわけではない。

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