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第334話

「起き上がれるまで回復したのは良いことですが、まだ熱もあるでしょうし急に動くのはやめておいた方が良いと思いますよ」  こんなにもわかりやすく男が警戒し構えているというのに、青年はどこまでも淡々としている。驚きも身構えも恐れもしない青年に、やはりここは男にとって敵陣なのかと警戒を強め、チラチラと逃げるだけの隙が無いかを探した。 「……そんなに警戒せずとも、ここにはあなたを害するものは何もありませんよ。殺すなら目を覚ます前にすれば良いことですし、生かして利用するつもりなら、最低でも手足は拘束して猿轡くらいはしますから。治療と、錯乱して攻撃されては困るので着物と刀は遠ざけていますが、何もしないとお約束いただけるならお返ししますし、出ていかれるのでしたら止めもしません」  男が殺気すらも飛ばしているというのに、ビクつくどころか構えもしない青年に目を細める。 「……何者だ」  低い、嘘を許さぬ声。その声に、彼は優しく微笑んでみせた。 「雪也と言います。この庵で薬を調合している、しがない薬売りですよ」  ジッと、真偽を見透かそうとするかのように男は雪也の瞳を睨みつける。しかし、雪也はゆったりと瞬きをして目を逸らさず、微笑み続けた。

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