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第335話
「しがない薬売りと言うわりには、随分肝が据わっている」
「人間、病になったり傷を負えば気性が荒くなったりもしますから。私は薬の調合が仕事ですから、本格的な診察や治療といった医者の領分はできないのですけれど、医者に診てもらうのは高価ですから、よくこちらに運び込まれます。なので、あなたは驚いたり警戒したりするかもしれませんが、こちらとしてはよくあることなので、なんとも」
目が覚めた瞬間に殴られそうになるのも珍しくないと言う雪也に、男は思わず視線を彷徨わせた。男もそれなりに修羅場を潜り抜けてきたという自負があるが、急に殴られそうになっても、殺気を向けられても〝よくあること〟で済ませ、微笑みさえ浮かべる雪也に得体の知れなさを覚える。だが、そういう理由であるのならば、彼が敵であると判断するのは尚早だろう。それに、雪也の言う通り、男をどうにかしようとするならば眠っている間に手足を拘束されているはず。例え刀が無くとも、男としては華奢な部類の雪也相手であれば分があるのは男であるのだから。
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