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第340話
刀は手元になく、身体は痛みを訴え熱で朦朧としている。機敏な動きは当然ながら、動いたところで体力がどこまで保つかわからない。だが、華奢で隙だらけの彼一人をどうにかすることはできるだろうか。体つきを見るに、彼は武術の心得も無さそうであるし、馬乗りになって首に手をかければ身動きは取れないだろう。そうして、彼が何者であるのか、敵か味方か、本当に他の情報は何も持っていないのかを確かめれば良い。そして敵であれば屠り、そうでないなら姿を消す。
(できるか……?)
体格だけならば、男に分がある。だが、殺気を向けられても微笑み続ける、その得体の知れなさに不安がよぎる。
おそらく、好機があっても一度きり。失敗すれば雪也は二度と隙を見せないだろう。それで命を奪われるならばまだ良いが、もしも雪也が敵であれば自決も許されず拷問をされて男が持つ情報を吐かされるだろう。それだけは避けなければならない。
ジッと雪也の様子を伺い、男にとって最大の好機を探す。雪也が少し離れた時、カタンと庵の扉が開いた。
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