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第341話
「ただいま、雪也。あのさ――ッッ」
男は当然ながら、雪也よりも小さい影が入ってくる。おそらく子供であろうその影に、雪也よりも男の方が近いと確信して、男は今が好機と立ち上がり駆けた。扉が閉められる前に子供へ手を伸ばす。武器など何もないが、子供の首に手を回すだけでも充分に脅しとなるだろう。
男が突然動きだし、己に手を伸ばしていることに気づいて子供は無意識に後退る。その、たった二歩の距離が男の命運を分けた。
「大人しく――」
子供に手が届く、その瞬間。横から伸びてきた華奢な手が男の腕を掴んだかと思ったその時、男は勢いよく床に背を打ち付けられる。痛みに息を詰まらせれば、次の瞬間には雷に打たれたかのような激痛が全身に走った。
「グッアァアァァァァァッッ」
抑え込むこともできず、口から断末魔のような悲鳴が響き渡る。ジワリと腹部が濡れ、横腹をつたった。
「私を疑うのは構いませんが、手を出すことを許した覚えはありませんよ」
床に打ち付けられた男の腹に片足を乗せ、雪也は恐ろしく冷たい瞳で見下ろしてくる。力の込められた足に踏みつけられ傷が開いたのだろう、巻かれていた真白な包帯が赤く染まった。子供は雪也が背に庇っているのだろう、男からは姿すら見えない。
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