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第342話
失敗した。せっかくの好機を逃してしまった。子供を人質にとれば雪也よりは御しやすしと思ったが、それがそもそも間違いだったのだろう。だが、そんな後悔をすることも出来ないほどに、男は激痛に身体を震わせ、瞳からは知らずボロボロと涙が溢れてくる。しかし雪也の足が腹部に乗っているので、痛みにもんどりうつことも出来ない。
「疑おうと疑うまいと、私が知っていることなど先程話したものくらいでしかありません。この子を人質にでもして真偽を見極め情報を得ようとしたのでしょうけれど、どんなことをされようと無いものは無いのですよ」
言葉だけを見れば穏やかで優しいものであろうが、その声音はひどく冷たく、突き放すかのようだ。額に脂汗を滲ませながら男は雪也を睨みつけるが、反撃どころか腹部を踏みつける足から逃れることすらできない。ジワリと血を滲ませる腹がうるさいほどに脈打った。
「先程も言いましたが、あなたが出ていくと言うのであれば止めはしません。この庵に留めたいとも思いませんし、あなたから何かを得ようとも思わない」
言って、もう男は機敏な動きはできないだろうと判断し、雪也は足を退ける。そして驚き立ち尽くす子供を庇うようにしながら、先程までいた奥へ向かい、布の塊を掴むと男に渡した。
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