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第353話
「いっそ清々しいほどに周は雪也至上主義だね」
「ん~? まぁ、仕方ないんじゃないかな~。周にとって雪ちゃんは特別だし。もう随分前になるけど、雪ちゃんを庇うために、あの無口な周が町中で叫んでたらしいからね~」
蒼は実際にその場面を見たわけではないが、商売をしている以上、いろんな噂が集まってくる。蒼に限らず、この町で商売を営んでいる者達は雪也の過去も、周が何を叫んでいたのかも知っているだろう。それを言いふらすようなことはしないけれど。
「……周はさ、雪也のことが好きなんだよね?」
わざとに玉ねぎを見つめながら湊がポツリと呟く。そんな湊に蒼は視線を向けた。
「そうだろね~。周はわかりやすいし」
「なら、さっさと告白でもしちゃえば、あんなに雪也も不安定にならないだろうに」
湊は雪也の過去など知らないし、知ろうとも思わない。だが関わる時間が長ければ長いほど雪也はどこか儚げで消えてしまいそうな雰囲気を持っていることに気づく。特に浩二郎が庵に居るようになってからは尚更に危うげだ。もしも周がそういった意味で慕っているのだと知り、愛されているのだと自覚すれば、雪也の危うさも消えるのではないかと湊は思うのだが、それを聞いた蒼は小さく笑って、首を横に振った。
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