380 / 648

第378話

 己の手を優しく包む弥生の手をポンポンと撫で、下がって良いとゆっくり手を振る。頭を垂れて立ち上がった弥生に視線を向けた。 「弥生……」  呼ばれて、弥生は振り返る。茂秋はこの年の近い友人の姿を目に焼き付けるように、ジッと見つめた。 「……さらばじゃ」  すべてを悟ったその言葉に、弥生は僅か、クシャリと顔を歪ませる。無言で頭を垂れ、部屋を出ていった彼の姿に茂秋はクツリ、クツリと笑った。  最後まで、子供のような足掻きをしよってからに。  シンと静まり返った部屋に深く息をつく。ボンヤリと天井を見つめていれば、どうしてか武衛に残してきた静宮の姿が見えた。  白い肌の、儚げな人。薄桃色の衣がよく似合う、どこか寂し気で、けれど笑うと鈴が転がるように、可憐な人。  これからもっと、もっと寄り添って、支え合って、愛し合えるはずだった。二人ともまだ若いのだから、共に歩む時間はいくらでもあるはずだった。けれど、もはや一目会うことも叶わない。――もう、あなたと共に時を歩むことはできない。

ともだちにシェアしよう!