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第379話

「口惜しいのぉ……」  悔しい思いは今までに数えきれないほどあったけれど、今この時ほど己が定めを恨んだことは無い。  なすべきことがあった。  成したいことがあった。  共に歩みたい人と、  見たい未来があった。  なのにどうして、この身体はもう僅かも動かない。横たわったまま、立ち上がることさえできないのか。  求めるように、足掻くように、茂秋は手を伸ばす。 「未来を――」  この混沌とした今の先にあるものを、望んだ光景を、願った未来を 「そなたらに、託そう」  滅びゆく衛府の行く末を、大切な、姫宮様と一目見ることも叶わなかった我が子を。  どうか――。  パタンと、小さな音をたてて腕が力なく落ちる。そして茂秋の意識は深い深い闇に呑まれていった。  すすり泣く声が響く中、視線の先で静かに茂秋が横たわっていた。上様、と呼び掛けても、もう何も返してはくれない。静かに、ただ静かに眠るだけだ。もはや、何に縋ったとて現実は変わらないと思い知らされる。  一歩、一歩と弥生は茂秋に近づいた。弱さを殺し、叫びを呑みこみ、彼が望み続けた〝弥生〟であるために、凛と顔を上げる。  ザッと裾を捌き、膝をつく。後ろに従っていた優と紫呉も同じように膝をついた。  横たわる主を前に手をつき、深々と頭を垂れる。 「おさらばに、ございます」  それが若すぎる君主におくる、最後の言葉だった。

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