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第380話
〝攻撃も大事だが、何よりも大切なのは気配に敏感になることだな。いることを察知しているのと、していないのとでは雲泥の差がある。もしも太刀打ちできない相手だったとしても、そこにいると察知すれば、知らねぇフリして逃げることもできるからな〟
そんなことをカラカラと快活に笑いながら、しかし情け容赦もなく叩きこんだ紫呉の姿を思い出し、ゴリゴリと薬草をすり潰していた雪也は顔に出すことなく、クスリと笑った。念のため視線だけで皆の様子を探るが、由弦も周も、そしてまだ体力こそ戻っていないものの少しくらいなら動けるようになった浩二郎も特に何かに気づいた様子もなく各々自由に過ごしている。サクラも由弦の側で気持ちよさそうに寝ているのを見て、雪也は不自然にならぬよう丁寧に薬包を作り、いつも通り棚へと仕舞った。コッソリと、皆に背を向けて見られぬようひと包みだけ薬包を襟元へ忍ばせる。
「少し薬草を採りに行ってくるね。すぐに戻るけど、何かあったら大声出して、呼んで」
薬草を採りに行くと言っても、場所は由弦が普段から整えてくれる裏の庭だ。少し大声を出せばすぐに聞こえる。それがわかっているので周も由弦もさほど気にすることなく頷いた。ほぼ同時に頷いた二人にクスリと微笑んで、雪也は少し大きな籠を持つと庵を出る。そして庭に向かう途中、外からは見えづらく中からも壁があって見えない場所を通りかかった瞬間に襟元から出した薬包を無言で一本の木の影に届くよう弾き飛ばした。そして何事も無かったかのように歩き出す。
視線を向けるどころか歩調を緩めることもせず行われたそれらに、雪也の背後でサワリと葉が擦れたような音がした。
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