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第381話

 さて、と庭にしゃがんで葉や茎を見ながら必要な薬草を選んで摘み取っていく。ジットリと汗がにじむほどの暑い日差しに、ふわりと髪を遊ばせるように風が吹くだけの静かな空間で、雪也は小さく息をついた。  どうにも近頃は世の中が静かに騒めいていて、妙な焦燥感と胸騒ぎを覚える。庵で治療を続けている浩二郎もそうだが、強い何かを秘めた瞳をギラつかせ、どこか人目を忍ぶように夜な夜などこかの一室に集まる若者が随分と増えた。刀を持たなかった者が刀を持つようになり、それどころか振るうようになる。流石に近臣などの高貴な者たちは自らの屋敷に戻るのだろうが、衛府の役人ではあるものの、そこまで立場が強くなく金にも困っているような者達や、浩二郎と同じように尊皇を唱える者達が、どう見ても刀で切られたであろう傷を抱えて庵に運ばれてくる。その頻度も、最近は多くなってきていた。  当然、雪也は医師ではない。できるだけのことはするが、できないこともある。救えない命もあった。その度に〝どうして助けられなかったのか〟と遺族たちに責め立てられることもある。尊皇の志を持つ者を救えない時は、浩二郎から無言ではあるものの鋭い眼差しを向けられた。

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