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第395話

 周りの感情に敏感で、己を犠牲にすることばかりが上手い、身体だけが大人になってしまった子供。遠慮して己を押し殺してばかりの雪也は、それゆえに間違いを犯すことも多い。雪也がそういう性格であるからこそ弥生から離れたのだろうが、蒼としては、まだまだ彼は弥生の庇護下にいるべきだった。もっと守られて、善悪と、そして時には必要になる非情さ、何を守り、何をなすべきかという選択。そういったものを教えてもらうべきだっただろう。そういう意味では、雪也よりも周の方がよほど世界を知り、区別をつけることができている。従順に色を差し出すことだけを求められ、その美しさゆえにただひたすら可愛がられていた雪也と、そもそも人との関りを避けて生きてきた由弦は、ある意味で箱入りなのだ。人が生きていく中で身体は勿論、心を守るために必要なことを何一つ知らないと言って良い。  今回も、雪也は特に結論を述べることはしなかったが、蒼の言葉で瞳に強い光を宿した。このままではいけないのだと彼自身が悟っているのだから、何かしらの動きを見せるだろう。だが、どう動くかなどまったく予想もできない蒼は、自らが大いに背中を押したというのに少し不安を抱く。  雪也はどうやって浩二郎を庵から出すのだろう。周や由弦がいる以上、実力行使はしないだろうが、雪也の性格を考えると一抹の不安を覚える。 (頼ることを覚えてくれたら、良いんだけどね)  微かに脳裏に過ったその予想を振り払うように、蒼は微かに頭を振った。

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