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第394話

「あぁ、すっかり長居しちゃったね。こんなに雪ちゃんを独占しちゃったら周に恨まれちゃう」  怖い怖いと大げさに己の両腕を摩る蒼に雪也は再びクスリと笑いを零す。 「周は恨まないだろうけど、でもそろそろ戻ろうか。周の手伝いもしないと、一人で任せるのは可哀想だし。湊も一緒でしょう? 夕飯、食べていくよね?」  いつもと同じ、穏やかな声音で言われて蒼はひとつ頷いた。すぐには元に戻らないだろうが、それでも雪也の瞳に強い光を見て、これ以上何を言わずともすべては動きだすだろうことを確信する。 (それにしても、こういう時に弥生様が居ないのは痛手だね)  弥生達が茂秋に付き従って倖玖城へ行ってから、もう随分と経つ。以前は紫呉がやって来ては数日泊まり、また倖玖城へ戻るということを繰り返していたが、最近はその紫呉さえも姿を見せない。浩二郎が尊皇を志す者である以上、その方が都合は良かったが、やはりまだ、雪也には庇護者が必要だろう。

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