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第393話

「僕が……、きっと弥生様たちも、雪ちゃんに願うことは一つだよ」  そっと、雪也の頬に触れる。精巧に作られた人形のように美しいその顔は、しかし確かに生きているのだと蒼の掌に温もりを伝えてきた。 「笑って、笑って、ただ幸せに生きてほしい。それだけだよ」  まろい頬を撫でる。弥生達が助け、慈しみ、守りたいと願った、その結晶。 (ねぇ雪ちゃん。弥生様たちもそうだし、僕もそうだけど。何より、誰より、雪ちゃんを大事に思って、大好きで仕方がない人がすぐ傍にいるんだよ? 気づいてるかな。あの子が雪ちゃんを軽蔑したりなんて、あり得ないんだよ)  それを受け入れる雪也ではないとわかってはいるけれど、いつか、いつかはきっと、と願わずにいられない。 「大丈夫。何も恐れるものはないよ。それを確信しているから、僕は今日ここに来たんだよ。僕は、雪ちゃんに嘘はつかない。絶対に。それは、雪ちゃんも知ってるでしょ?」  少し冗談っぽく言えば、キョトンとした雪也は、次いでクスリと小さく笑みを零した。それが嬉しくて、蒼もニコニコと微笑む。風に遊ばれる葉音に紛れるほど小さな声ではあったが、二人の穏やかな笑い声が響いた。

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