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第392話

 庵に来てから、雪也の世界は随分広がった。だが、穏やかな仮面の下で雪也は相手との間に一枚も二枚も壁を作り、自分を守っている。雪也の中に入り込み、その心を開かせたのは、弥生達しかいない。彼らに軽蔑されては、雪也の世界は崩壊してしまうだろう。何を失ったとしても、彼らとの今を壊すことが恐ろしい。  手が真っ白になるほど、薬草の入った籠を強く握りしめる雪也の背を蒼はゆっくりと撫でる。微かに震える彼は、いつもよりうんと小さく、幼く見えた。 「誰もそんな目で雪ちゃんを見やしないよ」  そんな酷いこと、絶対にしない。 「僕も、湊も、周も由弦も、弥生様たちだって、雪ちゃんが優しいから好きなんじゃないよ。雪ちゃんが優しく微笑んで、何でもしてくれるから好きなんじゃない。完璧な雪ちゃんだから好きなんじゃない。もしも、もしも雪ちゃんが何もできなくても、弥生様たちにとって〝良い子〟でなくなっても、軽蔑なんかしないよ、絶対に。僕が保証しても良い」  今この場にいない弥生達のことまで断言する蒼に、雪也はゆっくりと瞼を開く。揺れるその瞳に、蒼は小さく苦笑した。まったく、この子は――。

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