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第421話

 キビキビとした動きで立ち上がる女将に周と由弦は頷く。先程さんざんゆっくりしろ、安静にしろと言った手前、女将の言葉に反して居座るのも憚られて男達も渋々したがって踵を返した。途中、一人の男がそういえば、と立ち止まり振り返る。 「名前知らねぇけど、あんたも怪我は治ってんだろ? 周や由弦ならともかく、あんたがいたら雪ちゃんもゆっくり休めねぇ。一人で動けて薬も必要ねぇなら、あんたももう家に帰んな。家が遠いなら俺ん家に一日くらい泊めてやっても良いけど、とりあえずもう庵からは出ろ。雪ちゃんが休めねぇし、あんたの食い扶持を稼ぐために無茶しちまうだろ」  会話だけは聞いていたのだろうが、自分は関係ないとばかりに衝立の向こうで目を閉じていた浩二郎は、男が自分に話しかけているのだと気づいて瞼を開く。そんな浩二郎を早く早くと男達は急かすが、彼は視線を彷徨わせながら弱々しく抗った。

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