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第422話
「いや、俺は――」
「あんた別に庵にいたって、何もしないだろ? その時点で気を使われてんだから、もう動けるんなら出な。最近は薬も必要ないみたいじゃないか。なら尚更、雪ちゃんの側にいないといけないわけじゃないだろ」
この庵にいれば傷ついた仲間の治療を雪也に頼むこともできるし、同じように運ばれた近臣がどれほど助けられてしまったのかも把握し、仲間に情報を流すこともできる。刀を取り上げられてはいるが、それにさえ目を瞑れば浩二郎にとってこの庵は非常に利用価値の高いものだった。しかし、尊皇の志を隠している身としてはそのようなことをあけすけに話すことはできず、女将の言葉に口ごもることしかできない。どうしようかと悩んでいるうちに雪也に頼まれたのか、由弦がいつの間にか刀を持って浩二郎の元へ来ていた。この庵に居る間中隠されていた、浩二郎の刀だ。
「ほら、これで大丈夫だろ? これ以外の荷物は全部お前が持ってるはずだし、悪いけど、今は見ての通り余裕無いからさ、皆の所に世話になってくれ。流石に雪也を休ませねぇとだし」
刀を胸に差し出されれば、反射的に受け取ってしまう。そして、そこまで言われてしまってはもう、浩二郎に留まる理由は見つけられなかった。不本意だが、仕方がない。浩二郎は隅に置いていた自らの荷物を取ると、泊めてやると言っていた男の背について行った。パタンと由弦が庵の扉を閉めてようやく、久しぶりに穏やかな空気が流れる。
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