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第454話

「春風さんは、私にすべてを強い、諦めさせたと言わはった。確かに、この婚姻は私が望んで進めたものではなく、諦めたものも数えきれません。それでも、春風さんが謝る必要は無いのです。主上の妹として、この国の姫宮として、この城の御上として、どうであったかなど私には、わかりません。けど、女子として、何より上さんの妻としては、充分すぎるものをいただきました」  冷たいばかりだと思っていた城で、優しい温もりを感じた。抱きしめてくれる腕、微笑んでくれる唇、気遣う言葉を紡いでくれた声。なにより、忘れ形見となった息子を。こんなに早く終わりを迎えるなどとは思わなかったが、それでも、静宮は茂秋の妻として、充分なほどに幸せだった。 「我がすべて、何一つとして悔いなどありません」  茂秋の妻となる前ならば夢見たであろうすべてを、今の静宮は望まない。静宮にとって茂秋こそが、最愛の夫であった。

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