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第463話
ゆっくりと、あえて足音を消さぬままに裏へと回る。しかしそこにも雪也の姿はなかった。それでも焦ることなく、弥生は迷いもせずに足を進めた。
よほど焦っていたのか、ほんの微かではあるものの地面に不自然な窪みが続いている。地を蹴った時にできたのだろうそれを辿れば、生い茂る木々の合間に隠れるようにして艶やかな髪が見えた。
「久しいな、雪也」
ゆっくりと、足音を消さずに近づく。小さく震えながらも逃げない雪也を、後ろから包み込むように抱きしめた。
「……おかえりなさい、弥生兄さま」
決して振り向くことなく、雪也は柔らかな声でそう言った。きっと今、この子の頭の中は忙しなくグチャグチャに動き回っていることだろう。
声は震えていないか。
不自然ではないか。
ちゃんと取り繕えているか。
心配なんか、かけちゃいけないから。
気づいてほしくない。何も、気づいてほしくない。
――でも、本当は、少しだけ、ほんの少し、気づいてほしい。
(きっと、そんなことばかり考えているのだろうな)
そんなにグチャグチャに思考を動かしたところで、良い考えなど浮かばないだろうに。
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