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第464話

「元気にしていたか? 少し、痩せたようだが」  優しく髪を撫でてやれば、雪也の肩がピクリと跳ねる。まるで頭に置かれた手が、別の動きをするのではないかと身構えるように。 「ええ、元気にしていましたよ。痩せたように思うのは、弥生兄さまの気のせいです」 「雪也、久しぶりだというのに顔を見せてはくれないのか?」  取り繕うことに必死になって言葉を紡ぐ雪也に、可哀想と思いつつも本題を突きつけた。予想しつつも、今ここで突きつけられるとは思っていなかったのだろう、想定外のそれに頭がついて行かず、雪也は取り繕うこともできないまま唇を震わせ固まることしかできない。 「そんなに、辛かったか?」  見ないフリも、知らないフリもしないと示した弥生に、ようやく雪也も深くため息をついた。 「ご存知ならば、どうか、後生ですから見逃してください。弥生兄さまの前に立つ〝雪也〟は、いつだって笑顔でありたいのです」  でも今は、どうしても笑えそうにない。いつもみたいに微笑んで、弥生が慈しんでくれる〝雪也〟になりたいと思うのに、こんな時に限ってまだ頬は硬直してピクリとも動いてくれなかった。周たちの前ではあれほど笑みを浮かべることができたというのに。  だから、見ないで欲しい。少しでも隠そうとするかのように俯いた雪也に、弥生は抱く手の力を強めた。 「理想通りでない雪也はいらない、などと言った覚えはないのだがな」  いつだって笑顔でありたいと言ってくれるのは嬉しいが、それが雪也を苦しめるのならば必要のないこと。

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