499 / 611
第495話
凄惨な光景に眉をひそめながら、弥生の側に優や役人がいることを確認して、紫呉は集まってきた野次馬たちにそれとなく視線を向けた。ほとんどの者達はこの血に塗れた光景に息を呑み、恐怖に瞳を震わせている。だが、中にはいやに冷静な視線を向ける者もいて、隠しきることのできぬ未熟さなのか、隠す気など最初からないのか悩むところだ。それでも、彼らの視線の先にあるのが刀の刺さった籠ではなく弥生であることを知ったからには無視するわけにもいかない。
彼らの視線に気づいているだろう弥生と優に視線だけで離れることを伝え、完璧に気配を消して足音もさせず動く。体格が良く、大きな槍も持っているというのに、誰もが逆行する紫呉にチラとも視線を向けず、気にも止めない。そうして人混みを抜け、屋敷の塀の影に隠れる男の後ろに回り込んだ。
「これで満足か?」
突然後ろから聞こえた声に、男――浩二郎は勢いよく振り返る。塀に背中を凭れさせ腕を組み、なんとものんきそうな様子であるが、その実、隙などどこにも見当たらない。なんとも得体の知れないその存在に、浩二郎は佩いた刀の柄に手をかけた。
ともだちにシェアしよう!