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第498話

「……それで? わざわざ気配を消して近づいてまで私に何用だ。まさか本当に〝これで満足か〟と聞きたいだけではあるまいに」  捕まえて警部所の役人に付きだすのか、と刀の柄を握りいつでも戦える体勢を整えた浩二郎に対し、紫呉はヒョイと肩を竦めるだけで槍を構えるどころか、凭れている塀から背を離そうともしない。 「どれだけお前が疑おうと、言葉のままでしかねぇよ。言っただろ? おれは言葉で何かするには向かねぇし、ここで戦うつもりもねぇってよ。お前の言う通り、ただこれで満足なのかと聞きたかっただけだ」 「それを聞いてどうする」  聞いたところで何が変わるわけでもあるまい。浩二郎は尊皇の心を捨てることはなく、春風は衛府の忠臣。永遠に分かり合うことのない両者に、はたして言葉が必要であろうか。 「理解できないものを知りたいと思うのは何もおかしな理由じゃねぇだろ? どうにも俺にはこの虐殺の果てにお前らが何を掴むのかがわからなくてな」 「なに――」  浩二郎たちが持つ志は崇高なものだ。それを馬鹿にされたような気がして、浩二郎はカッと頭に血を上らせる。顔を真っ赤にしながら震える浩二郎に、しかし紫呉は特に態度を変えることも、発言を詫びることもしなかった。

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