503 / 611

第499話

「だってそうだろ? お前らが声高に叫んでるから最終目的はわかってるつもりだが、それでも理解はできねぇ。確かにあの卯領の大臣は将軍の側近だ。衛府にもそれなりの痛手になるだろうな。でも、それだけだ。言っちゃ悪いが、代わりがいねぇわけでも、幾万の兵を失ったわけでもない。どこぞの領主を取り込むならともかく、このやり方は回りくどすぎるし、こんなことを続けていればお前らの考えに賛同してくれるだろう領主をも敵に回す。自分も惨殺されるかもしれねぇとなれば、領主もおいそれと懐には入れねぇだろうからな」  確かに衛府の近臣を一人減らすことはできた。だが、それだけだ。そしてその大臣も、すぐに次代が決められ、表面上は何一つ変わることなく進む。多くの仲間を失ってまでこれで何を得、成し遂げたのか。その紫呉の問いには何かしら思うことがあったのか、浩二郎は刀から手は離さないものの唇を噛み、視線を俯かせる。 「……だがそれでも、我々は止まるわけにはいかない。かつてがどうであれ、今の衛府は何の力もなく、堕落し、諸外国から我が国を守ることすらできない。例え我が身を犠牲にしたとしても、民のため、国の未来のために、我々は進むべきだ」  誰に何を言われようと壊れることなど無い。その心を示すように浩二郎の手は強く強く刀を握りしめている。その刀をチラと見て、紫呉はようやく背を起こし浩二郎に向き直った。

ともだちにシェアしよう!