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第501話
浩二郎の嗤いなど気にもならないとばかりに肩を竦め、紫呉は襟に指を差し入れると真白な懐紙を取り出した。いったい何だと眉間に皺を寄せる浩二郎の前で、紫呉は近くの樹にその懐紙をふわりと投げると、ダンッ! と槍を突き立てた。
「ッッ――!」
真白な懐紙が中央を貫かれ、樹に縫い留められている。突然のことに目を見開いて言葉を失う浩二郎に、紫呉はゆっくりと視線を向けた。
「今は懐紙だったが、次はこれが人間の命になる。それが戦だからだ」
力を振るうということはそういうことだ。人間の柔い肌を貫き、血しぶきをあげさせ、そして命を奪う。
「戦が起これば、一番に被害を受けるのは多くの民だ。お前らからすれば衛府は罪があるのかもしれねぇが、民には何の罪もない。だが、お前らが憎む衛府の何倍もの犠牲が出る。多くの民から平和を奪い、家を奪い、大切な者を奪い、明日を奪う」
刀を握るということは、戦を起こそうとすることは、そういうことだと、目の前の凄惨な光景を作り出した者達は知るのだろうか。
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