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第517話
「それって下手したら弥生が――」
何か不利になることがあるのでは? と問いかけようとした紫呉の言葉は、しかし近づいてくる足音に閉ざされた。襖の向こうから優を呼ぶ声が聞こえ、入るよう応える。
「失礼いたします。紫呉様、秋森様、火急の報せにて殿か若様にお伝えしたいのですが」
走って来たのだろう、紫呉の部下の言葉に二人は眉根を寄せる。パタンと書物を閉じた優は、身体ごと彼に向き直った。
「殿は出かけておられるし、若様も来客中だよ。火急とは、何があったの?」
よほどのことであれば今すぐに耳打ちなり紙に書くなりして報せるという優に、彼は二人にだけ聞こえるよう顔を近づけ小声で呟いた。
「峰藤領の補佐官、杜環様がご自身のお屋敷でお倒れになりました。医師の診断によれば、心の臓を患われたとのこと」
それはひとつの大きな希望が消えかからんとしている予兆に他ならなかった。
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