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第526話

「これくらいでいっか。今日は紫呉が手伝ってくれたから早かったな」  いつもならもう少し雑草と格闘しているところだが、今日は随分と早い。井戸から酌んできた水を撒いてから、軒下の影に揃って座り込んだ。 「ほら、弥生から貰ったやつだ。中で皆も食ってるだろうから、由弦も食えよ」  そう言って紫呉が懐から取り出したのは可愛らしい砂糖菓子だった。懐紙に乗せられたそれをそっと手に取って由弦はパクリと口に運ぶ。口内に広がる甘さに、思わず口元が綻んだ。 「一仕事の後の甘味は格別だろ?」  疲れた身体にじんわりと甘さが染み渡る。クッタリとした体に活力が戻るような感じがしてニコニコと笑みを浮かべた由弦であったが、微笑ましそうな顔で見つめてくる紫呉に小さく首を傾げた。 「紫呉は食べないのか?」 「ん? 俺は屋敷でもらえるだろうから気にすんな。由弦が全部食って良いぞ」  近頃はメキメキと腕を上げた周によって食事は充分に摂れているだろうが、それでも甘味となると野菜などよりは高価になるため頻繁に食べることはできないだろう。ならばこういう機会にたくさん食べれば良いと紫呉は思うが、そんな彼に由弦は懐紙から新しい砂糖菓子を摘まむと問答無用でその口に突っ込んだ。

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