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第600話

 父のことは嫌いではない。家族仲は良いと思うし、会話がないわけでもない。商売の上では尊敬することも多々ある。だが、どこか閉鎖的で自分の知らないものを受け入れることができないところや、家族さえ無事であれば何を犠牲にしても構わないという考えが蒼にはどうしても受け入れがたいものであった。きっと父は何かあれば、あれほど頼りにし幾度となく助けてくれた雪也たちでさえ容易く切り捨て、彼らの窮地に対しても知らないフリをするだろう。あるいは、積極的に人身御供として差し出すか。  蒼は家族といっても護られる立場であるから、この想いがわからないのだ。そう言われれば反論はできないが、納得もできない。そんな蒼は近頃の情勢も相まって、父と言い争うことも多くなっていた。それを察したのか、ここしばらくは湊もあまり顔を出さない。雪也の庵に行けば会うことはできるのだが、内容が内容なだけに父との言い争いを聞いたのかとも確認することはできなかった。それとなく雪也達に聞いてみたが、彼らも何も知らないらしい。  父を含む家族のことも、湊のことも、蒼には大切で掛け替えのない存在だ。どちらかを捨てるなんてことはできない。

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