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第601話

 父の家族を想う気持ちを否定したいわけでも、湊が何か悪いことをしたわけでもない。ただどちらも大切にし、手を繋いで共にありたいと、ただそれだけを願っているだけであるのに、それはそんなにも贅沢で我儘な願いなのかと、世の無常さに蒼は子供のような癇癪を起して暴れまわりたい気分だ。でも、それではいけないと胸の内に押し込めれば押し込めるほど自分に余裕がなくなって、父のちょっとした言葉が癇に障り眉をしかめてしまう。 「はぁ……、上手くいかないな」  店の裏で野菜の土を落としながら蒼は深いため息をつく。今日も朝から父と言い争いをしてしまい、昼近くになった今でも互いに口をきいていなかった。もはや意地の張り合いであるが蒼の中で納得できない部分が大きすぎて、場の空気は重苦しく居心地も悪いが、どうにかしようと蒼から歩み寄る気分にはなれない。結局逃げるように野菜の入った籠を山ほど持って土を落としたりと店に出せるように裏で作業しているが、それも流石に終わりが見えてきた。この人参の山を片付ければ、もう汚れた野菜はひとつもない。  蒼の仕事は店を手伝うことだ。ずっと逃げていても仕方がない。最後の人参を綺麗にし終えた蒼は深々と重苦しいため息をつくと立ち上がり、籠を持って店の中へ戻った。  嫌だ嫌だと思いつつ中へ入れば、父はちょうどお客の会計をしているところだった。いらっしゃい、とお客に声だけをかけて蒼は綺麗にした野菜を並べていく。今回は長話をするようなお客ではなかったのだろう会計が終わるとすぐに帰ってしまったため、店の中に気まずい沈黙が流れ落ちた。チラと視線を向ければ、父は帳簿を睨みつけて蒼の方を見ようともしない。  分からず屋の意地っ張り。  きっとお互いにそう思っていることだろう。わかっていて、それでも蒼は父に背を向け続けた。

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