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第602話

(今日も湊は来ないのかな……)  こんなこと、湊にだけは絶対に言えないけれど、同時に湊にこそ聞いてほしいなんて矛盾した気持ちが蒼の中でグルグルと渦巻く。  肩を寄せ合って、すぐに何でもないように誤魔化してしまう自分の言葉を聞いてほしい。そして彼の持つ答えを聞きたい。たとえそれがどんな言葉であったとしても、すべては蒼を想っての言葉であると知っているから。 (でも、こんなこと言ったら湊は傷つくよね)  ただでさえ自らの金の髪と緑の瞳を気にしているのだ。きっと、最近蒼の店にあまり姿を見せないのも、これに関係しているのだろう。答えは欲しいけれど、自分が楽に呼吸をするために湊を傷つけるわけにはいかない。 (何もかも、上手くいかないな)  結局一言も口をきかないまま昼食を終え、父は荷車に多種の野菜を山のように積んで主人の怒声と鞭のしなる音が絶えない商家へと向かった。あそこの主人は随分な癇癪もちだから父が納品に行く時は心配で途中まで見送る蒼であったが、意地ゆえに、今日はそれもしなかった。  この不穏な世の流れを理解していながら、それでも変わらぬ明日がやって来ることを疑わず、蒼も父も、自らの意地を優先させてしまったのだ。

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