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第605話
ゴリ、ゴリ、と薬研で薬草をすり潰しながら、雪也は周たちに気づかれぬよう視線を辺りに回らせた。
(なんだか、今日はやけに静かだ……)
特にいつもと変わりないはずであるのに、なんだか胸騒ぎがする。まだ月路は弥生の元から帰って来ておらず、彼の加護が無いから過敏になっているのだろうか?
おかしな気配が無いか探っていれば、サクラと遊んでいた周が近づいてくる。咄嗟に常を装った雪也に気づくことなく、周は薬研に視線を向けた。
「雪也、そろそろ買い出しに行こうと思うんだけど、行ける?」
まだかかりそうなら待つという周に、もうそんな時間かと雪也は素早く立ち上がる。
「包んでしまうから、あと少しだけ待ってもらっていい? すぐに終わらせるから」
パタパタと引き出しから懐紙を取り出した雪也に周は頷いて、すぐに出られるようにと籠や金子を用意する。その横でサクラを抱っこした由弦がチラチラと扉の向こうに視線を向けて小さくため息をついた。
「今日も湊こねぇなぁー。蒼の店に居ればいいんだけどよ……」
近頃の湊は様子がおかしい。いつもならば日中は蒼の店の手伝いをして、日が暮れれば彼と共に庵へやって来るのだが、近頃は蒼の店にも姿を見せておらず買い物や薬を届けに外へ出た由弦たちが物陰に隠れるようにして座り込んでいる湊を見つけて庵へ連れて帰ることを繰り返していた。その度に、いつでも時間など気にせず庵に来たら良いと皆で言っているのだが、湊がそれを実行する時は少ない。
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