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第606話
湊には湊の世界がある。蒼の店におらずとも、彼がやりたいように時間を過ごしているのならば、由弦達に何かを言う権利はない。だが、影に隠れ何かから逃れるように蹲るその姿は、もうこの世のどこにも自分の居場所などないのだと泣いているように見えて、とても幸せに、あるいは生き生きと過ごしているように見えない。だからこそ、由弦は心配そうに何度も何度も扉の方を確認してしまうのだ。
「買い物のついでに蒼の店を覗いてみようか。もしかしたら今日は店にいるのかもしれないし」
湊が蒼を一番に好きであるように、蒼もまた湊を常に気にかけている。だから、もしかしたら――なんて、湊が何を聞き、気にしているのかを知ることのない雪也達は、二人が大切に思い合っているからこそ事はそう簡単に終わらないのだということに当然気づくはずもなく、そんなことを思っていた。
慣れた手つきで薬包を作り終えた雪也が手早く配達する薬を包み、出かける準備を済ませる。既に準備をすませていた周は扉に手をかけ、由弦もサクラを抱っこしたまま立ち上がった。
庵は少し離れた所にあるため人通りが無いのは珍しいことではないが、近頃は町の人々も不穏な世に警戒しているのか必要最低限に外出をしているため道は閑散としている。本来であれば呼び込みなどで娘たちが元気な声を響かせているだろうに、娘たちも店の中に閉じこもっており店が並ぶ道とは思えぬほどに静かだった。
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