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第607話
「こうも静かだと薄気味わりぃよな。そりゃ、あちこちで近臣が殺されてるのを見てたら外になんて出られねぇってのもよくわかるけど」
由弦とて、生きていく為に食料は必要であるから外に出ているだけで、これが娯楽品などであったとしたら諦めて庵に籠っているだろう。何より、紫呉が手解きしてそれなりの強さを持つ雪也であっても一人で外に出すのは恐ろしいのだ。戦う術など持たない町民であればなおさら一歩外に出ることが恐怖で仕方がないはずだ。
ほんの少し前までは活気に満ち溢れ、人々の元気な声が飛び交っていたというのに。
俯きそうになって、由弦は誤魔化すように腕に抱いたサクラの頭を撫でる。そんな由弦に雪也は大丈夫だと言うように背を撫でた。
「時の流れは人間が思うよりも早くて、そして遅いから。でも止まることは無いのもまた真実。今は誰もが警戒して静かだけど、また活気に満ちた町が戻ってくるよ」
時を止めるなどという大それた力など人間は持たない。幸せな時間も、苦しい時間も、等しく流れていく。
「雪也は時々難しいこと言うから、よくわかんねぇけど、わかった」
わかったのか、わかっていないのかどちらなんだ、というように由弦の腕の中でサクラがふふふふふ、と笑う。そんなサクラの頭をワシャワシャと撫でていれば、いつの間にか蒼の店に到着していた。
「あ、いらっしゃ~い」
入ってきた雪也たちに気づいて、帳簿をつけていた蒼が顔を上げてにこやかに声をかける。
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