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第609話
「ありがとう、蒼。でも今日は薬も届けないといけなかったから、どのみち出ないと。僕は今から行ってくるけど、由弦と周はどうする?」
蒼と居るならばそれでも良いと微笑む雪也に、周はすぐにブンブンと首を横に振って否定し、由弦は少し悩むようにサクラを見下ろした。
「あー、俺はここに居るよ。薬を届け終わったらここで買い物するだろ? その時に合流しようぜ」
頷く雪也と周に「いってらっしゃい、気をつけてな」と告げて、二人が出たのを見送ってから由弦は蒼に向き直った。
「あー、あんま言いたくなかったら、無理に言わなくても良いんだけどよ。そのー、湊となんかあった? 最近なんか湊の様子がおかしいし、蒼もなんか、元気がなさそうだしよ」
そりゃこんだけ連日どこかしらで誰かが殺されていたら元気も無くなる。商売あがったりだしね――なんて、言えれば良かったけれど。真剣に心配してくれる由弦にそれを言うことはできなかった。蒼は力なくフッ、と笑って筆を置く。本当は帳簿なんてとっくにつけ終わっていたのだ。ただなんとなく、何もしない時間が気持ち悪くて筆を持ち眺めていたにすぎない。
「さぁ、それが僕にもわからないんだよね~。特に喧嘩したわけでもないんだけど、いつからかぜんぜん来なくなっちゃって。何かしちゃったかな~って前にちょっと聞いてみたりもしたんだけど、何でもないって笑うだけなんだよね~。急だったし、何もないわけはないと思うんだけど。……湊の姿が見えないってことは、今日はそっちに行ってないんだよね? 家にいるなら、良いんだけど……」
心配とやるせなさと、思うままにいかない苦しみがないまぜになって、蒼は重いため息をついた。そんな彼に由弦も眉を下げ、サクラは励ますようにポンポンと蒼の頬を叩く。
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