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第633話 ※

 由弦やサクラのことは気にかかるが、今は帰ってこないでくれと震える手を握りながら願う。もしも今由弦が帰ってきたら、由弦もまた白刃の犠牲になってしまうだろう。そして雪也は必ず由弦を守ろうとする。その時にどうしても隙が生まれ、雪也の命もまた切られてしまうかもしれない。  これほどの騒ぎだ。いくらこの庵が町から少し離れているとはいえ、誰かが気づくはず。そうすれば、きっと役人が来てくれるだろう。それまで時間をかせげれば、雪也も助かる。奴らが逃げるなり捕まるなりして、雪也の傷の手当をして、そして由弦とサクラを探しに行こう。そうだ、この庵が危険であれば、どこかに身をひそめる必要が出てくる。少しでも早く動けるように、雪也の手当てをする布と包帯、それから生活に必要なものを纏めておこう。それくらいなら音をたてずできるはずだ。  できることならば雪也から目を離すのは恐ろしい。彼らはまさしく命のやり取りをしているのだから。それでも、雪也を想うのならば、今は信じて動くより他ない。  上手く働かない頭で何が必要かとあれこれ思い浮かべながら扉の前をそろりと離れる。その時、カタンと微かな音が聞こえた気がした。  ハッとして裏口を振り返る。いるはずのない、見覚えのある姿がそこにあって周は大きく目を見開いた。咄嗟に身体が動かない。震える唇を開こうとした時、彼は周に走り寄ってその口を手で塞いだ。 「……どうか許してくれ」

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