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第649話

「雪也!」  湊の場所からは雪也しか見えなかったが、駆け寄ってみるとそこには周も由弦も、そして蒼の姿もあった。 「蒼ッ、雪也ッ、周ッ、由弦ッ、何があったんだッ!」  大声で叫び、その肩を揺する。だというのに誰一人として目を開かず、身じろぎさえしない。なぜ、と蒼の頬に手を伸ばし触れた瞬間、湊は現実を突きつけられた。  手のひらにつたわる、その冷たさ。生きる者の温もりが僅かも感じられない、残酷な冷たさがそこにあった。 「……そ……な……」  違うと言ってほしい。単なるおふざけだと笑ってほしい。驚かせたかっただけの、趣味の悪い冗談だと。  願って、願って、叫ぶように蒼の肩を揺さぶり、雪也の手を引き、周の胸を叩いて、由弦の耳元で叫んだ。 「蒼ッ、お袋さんが待ってたぞ!」  泣いていた。蒼は家族が大好きだから、行かないといけないだろう? 「雪也おきろッ! 弥生さまを待ってるんじゃなかったのか!」  帰ってこられるのをずっと待っていると、そう言ったじゃないか。 「周ッ、雪也に肉を食わせるって意気込んでただろ! 周ッ!」  弥生が発ってからまたあまり食べなくなった雪也を心配して、ちゃんと肉を食べさせないと、と闘志を燃やしていたじゃないか。 「おい由弦ッ! サクラが帰ってきたぞ! お前はサクラの家族だろ! ずっと一緒だって言ってたじゃないかッ!」  サクラが寂しがって鳴いているんだぞ。お前が抱きしめてやらなくてどうするんだ。  叫んで、叫んで、なのに誰一人として瞼を開かない。ただ冷たくそこに眠っているだけだ。 「みんなッッ!!」  起きて……、起きろよッッ!  認めないと、縋るように揺さぶろうとした湊の肩を、静かに見守っていた男がポンと叩いた。たったそれだけなのに、こんなにも重い。

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