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第683話 ※
守りたくて、そのために必死になって、なのに守れなかったモノ。ならば、せめて――。
「放てぇえぇぇぇッッ」
号令が響き渡る。同時にパンッ、と何かが弾ける音がして、肩が、太ももが燃える。視線を向ければ、紫呉に銃を構えている者が数人いた。
あぁ、なるほど。
「そんなもんで止められると思うなッッ!」
僅かに身体を動かしただけで鮮血があふれ出した。しかし構うことなく紫呉は槍を指揮官であろう男に投げ、同時に地に落ちている敵の刀を拾い銃を持つ男達に投げる。その刃はブレることなく心臓を、首を切り裂いた。
撃たれてなお戦い続けるその姿に本能が恐怖するのか、兵の足が、手が乱れる。その隙に槍を取り戻した紫呉は全身を真っ赤に染めながらも敵に襲い掛かった。
守りたかったモノは、守れなかった。ならばせめて、弥生と優だけは守り切らなければならない。
たとえ世界がどうなろうと、弥生は幼き頃から仕えた主で、優は同胞。役割も背負うものもそれぞれ違ったが、それでも名づけるならば友だと迷いなく言えるだろう。
愛する者も、慈しんだ者達も、あの庵にはいない。だが、武人として、友として、失意の中なに一つ守りきることができないなど許されるものか。
(じゃねぇと、カッコ悪くてお前に会いにいけねぇしな)
なぁ、由弦。
ニィっと口端を吊り上げる。刃が鈍く光り、辺りを真っ赤に染め上げた。
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