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第682話 ※
ずっと、月路から報告を受けてからずっと、紫呉は後悔している。どうして自分は戦う術を彼らに教えたのだろう。どうして、真っ先に逃げることを教えなかったのだろう。
逃げて、隠れて、それは何も恥ずかしい事ではない。生きてさえいれば、何だってできる。やり直すこともだ。それを一番に教えなければならなかったのに、自分は戦う術だけを教えた。そうすれば己の身ひとつくらいは守れるだろうと、浅はかにも考えて。
(早く帰ってこいって言ったのは由弦だってのに、肝心のお前が庵に居ねぇんじゃ意味ないだろ)
温かな光が溢れ、美味しそうな匂いがして、そして顔を出すと紫呉の名を呼んで駆け寄ってきてくれる場所。
(後悔はしねぇ主義だったんだがな)
そんなことをしても過去は変えられない。変わらないのなら、前に進むしかないではないか。そう思うのに、己の頭とは裏腹にあの時ああしていれば、こうしていたならと心が叫ぶ。
〝サクラと一緒なら、あんたに付いてく〟
初めて出会った彼の言葉が蘇る。サクラだけが世界だった、あの日の彼。
クッ、と唇を噛んで叫びだしそうになる心を押し込め、敵を薙ぎ払うために槍を振るった。
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