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第691話 ※

「こちら、です……」  どれくらい進んだろう。そう長く歩いたわけでもないのに杜環の胸が重く沈んで酷く身体が疲れる。ようやく立ち止まった兵が示す先を見つめ、やはり深く深くため息をはいた。 「力で物事を進めようとすれば、いずれその刃で己の命を刈り取られる。何度もそう告げたはずだったが、最後までその耳には届かなかったか」  視線の先には地に倒れ伏した光明の姿があった。泥で汚れた姿は戦いの中で踏まれたりしてできたのだろう。致命傷は心臓を一突きされたそれ以外にはないが、もはやじっくり見ないと光明だとわからぬほど汚れている。足元では織戸築の兵が折り重なるように倒れていて、ここがどれほど混乱を極めたのかが窺えた。 「光明」  汚れるのも構わず膝をつく。そっと手を伸ばし、光明の見開いたままだった瞼を降ろした。 「ここで弥生殿を殺して、春風を止めて、それで何になると思った?」  駄目だと、それでは何も変わらないのだと何度も杜環は説いたけれど、光明は最後まで頑なだった。その結果がこれであるのならば、自分の感情は無視して仕方がないと諦めるより他ない。

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