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第695話 ※
「それではいけない。私が行かなければ」
「あなた様は峰藤の人間です。たとえ光明殿のことであっても、杜環様が命をかけて責任をとらねばならぬことではありません。それをすべきなのは織戸築ではありませんか」
そう、関係はどうであれ杜環は峰藤の者。光明を見放したのか、あるいは面倒ごとを避けるために切り捨てたのかは知らないが、織戸築がまったく動かないというのに心の臓を患って安静にしなければならない杜環が、それも命を削ってまで成すべきことではない。なのになぜ杜環はここまで頑ななのかとお付きの者は拳を握る。だが杜環は困ったように笑うばかりで引き下がる気はまったくなかった。
「春風家はご当主も弥生殿も私や峰藤に対して常に誠実だった。なぜ動くのか、そんな晒すことさえ近臣としては危険な思いもまた、私に話してくれた。それは簡単なようで酷く難しいと私は思う。現に、峰藤の補佐官という立場である私にそれほどの誠意を向けてくれたのは近臣も領主も含めて春風家くらいだ。ならば最後まで、私も春風家に対して誠意を尽くすべきだと思う。何より、夏川殿は常に弥生殿が側に置いていた部下。いや、友だ。その彼を、弥生殿の側に帰して差し上げたい。私自身がだ」
それが友とも思っている弥生に対して、杜環が唯一できることだろう。
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