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第710話

「……今一度、上様に問います。上様は我々に死ねと仰るのか?」  民を守るために〝尊い犠牲〟にでもなれと、本気でそう言っているのか? 「私には理解できませぬ。上様、衛府が無条件で降伏し、帝に政を返上したとして、それで国がすぐに治まりますか? いいや、できぬと私は断言いたしましょう。尊皇を訴える者たちはそれを大儀と掲げ、国のためと上様や我々近臣を狙い続けるでしょう。衛府が無くなろうと、上様が政を行えなくなろうと、そんなものは奴らに関係ない。上様や我々がこの世に存在するというだけで彼らは刃を抜き、根絶やしにせんと襲い掛かってくる。上様、上様は帝の臣下だと常々仰る。ゆえに此度もまた、政を含めたすべてを返上するに躊躇いが無いのでしょう。ですが、その帝は我々を守ってくれますか? 今ですら動かず座して見るだけの帝が、すべてを失った我々に手を差し伸べ、盾となってくれますか?」  武衛はもちろん、お膝元である華都で衛府の者達が惨殺されようと帝は動かない。摂家は憎き衛府が対処もできず右往左往しているのを嗤って見ている。それはそうだろう、彼らは尊皇を謳っているのだ。彼らが勝てば、政のすべてが帝に――華都に戻ってくる。

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