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第711話
「守られず、ただすべてを返せば、我々は我々の命はもちろん、親も、妻も、子も失うでしょう。我々の配下であるというだけで部下も兵も惨殺されるかもしれませぬ。たとえ奪われなかったとしても、衛府が無くなれば我々は生きる術を失いましょう。あるいは恭順の証、あるいは今までの贖罪をせよと私財を取り上げられるかもしれない。私刑で容易く命を屠る者に、法の順守や人道など求めたところで無駄でしょう。ならば我々は全てを失って、どうやって生きろと? 我々だけではありませぬ。我々には幾万の部下や兵、そしてその家族がいるのです。彼らをどうやって食わしていけと? 到底無理です。衛府が無くなれば、我々は無残に殺されるか、生きても飢えで惨めに死に絶える。それでも、衛府のすべてを明け渡されるのか? 目的のためならば多くを殺すことになんの躊躇いもない、政が何たるかも知らぬ私情の者達に。そしてそんな者達を己が願いを叶えるために放置し、我々が死ぬを笑って待っている摂家や帝に」
それで何が変わるのか。その問いに春風当主が静かに瞼を伏せる。確かに、反論する言葉の何をも持たない。
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