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第713話
「領主すべてが、とは言わぬが、それでも幾人かは過激派と通じているのはわかっておる。心の底から衛府の滅亡を願っている者がいることも」
ゆっくりと、領主たちは閉ざした瞼を開く。ピクリとも表情を動かさぬ彼らは肯定も否定も返さない。いっそ不気味ともいえる静けさの中で、芳次は想定内だと揺らぐこともない。
「だが、今はそれを責めようとも思わぬ。責めたところで、人の心も、思想も、欲望も、なにひとつ変わらぬだろう。責めるだけ無駄ともいえる。ゆえに、そなたらにはそなたらにしかできぬ責を、果たしてもらいたい」
後の人々は芳次のことを何一つ成せなかった将軍だとでも評するだろうか。それは間違っていないと胸の内で苦笑する。だが、芳次とてただ座して目を閉じ、耳を塞いでいたわけではない。
まだ茂秋が健在だったころから春風家は多くの根回しをしてくれていた。その言葉を聞いて動こうと決意してくれた者もいた。実際に言葉を惜しまず、時を惜しまず、平和にと奔走してくれた者がいた。だが、強すぎる欲は目の前の栄華を諦めることができないように、強すぎる志もまた多くの言葉から耳を塞ぎ、まき起こる惨状から目を閉ざさせた。あるいは、すでにその光景に高揚し幸せすら感じていたのかもしれない。どの道、強すぎるモノを持つ彼らは何をも聞かず、止まることはしなかった。そんな彼らにたかが将軍という、もはや彼らにとっては何の意味もない、ただ壊すだけの頂に座す者の責めなど何の意味があるだろう。何を動かすことさえできない。
ならば今は、そんな意味のない責めを口にするよりも、多くを生かす選択をしなくてはならない。たとえ真意が伝わらず、人々に何と言われようともだ。
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